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永遠へ続く宇宙 [出版]

 昨日に引き続き、昨年の5月に出版した本の紹介です。
 サイドバーにも掲載している通り、タイトルは「永遠へ続く宇宙(とわへつづくそら)」 表題作とエンジェルズ・ブルーという、短編2作を収録しています。
 昨日、今日と2回にわたり、各々の導入部を掲載します。
 書籍として出版されているので、全てをブログで公開するわけには参りませんが、一部ならば構わないでしょう。
 既にお読み頂いている方も、何人かいらっしゃいます。
 他の皆様もこれをお読みになり、もし本を目にする機会がございましたら、是非手に取ってみて下さい。よろしく御願いします。

 

永遠へ続く宇宙(そら)

永遠へ続く宇宙(そら)

 
 
< 永遠へ続く宇宙 >

 少女は思い詰めたような表情で、遥か下を流れる渓流を見つめていた。風が吹き抜け、立っている吊り橋が揺れる。乱されて顔にかかる髪を、直そうともしなかった。ただ橋の手摺りに手をかけ、岩に当たって砕ける水しぶきをじっと見ている。
(ここから下に向かって跳べば、悲しみは終わるのね)
 そんな事を考えながら、恐怖心は全くなかった。
 やがて決心をつけた様子で、手摺りから身を乗り出す。ひと思いにそれを乗り越えて…………。
 その刹那、後ろから誰かに抱きすくめられ、
「バカな事するな。こんなとこから飛び降りたら、死んじまうぞ」
 凄い勢いで引き戻された。声の主もろとも、橋の上に倒れ込む。
「死ぬんだから離してよ。邪魔しないで!」
 少女は必死になってもがいた。自分を抱きしめている腕を振りほどこうとするが、相手も必死だ。なかなか離れようとしない。
「何があったか知らないけど、その若さで死んでどうすんだよ」
「そんな事あなたに関係ないでしょう」
「そうは行かないよ。こんなとこ見ちまって、はいそうですかって簡単に見過ごせるか」
「どうせ私なんか、生きてたってもう長くないんだもん」
「長くないってどういう事だよ。バァさんになるにはまだ何十年もあるじゃないか」
 少女は吊り橋が揺れるのもかまわず暴れていたが、やがて諦めたように大人しくなった。
「分かったわよ。もう死ぬなんていわないから離して」
「ほんとか?」
「ほんとよ。苦しいじゃない。息が詰まって死んじゃうわ」
「えっ?あぁ、ごめん」
 声の主は少年だった。無我夢中であまりにも強く抱きしめ過ぎていた事に気づいて、慌てて離れる。
 二人はそこで、やっとお互いの顔を見る事が出来た。
 少女は鼻筋の通った瓜実顔。少し憂いを含んだ寂しげな眼元が、たおやかな印象を与える、ちょっと古風な顔立ちである。
 少年の方は、陰のある眼差しが線の細さを少し感じさせる。しかしそれと同時に、横に結んだ口元が、意志の強さを表していた。
「あぁ苦しかった。あんなに強く抱きしめるんだもん、死ぬかと思った」
 少女が、ホッと息をつきながら言う。
「よくいうよ。ひとがせっかく助けてやったのに」
 その言葉に、少女は悲しげに眼を逸らした。
 少年が軽く肩をすくめて見せる。
「どうせ、余計なお節介だっていいたいんだろ?」
「ごめんなさい。助けてもらったのに…私、バカな事考えてた」
「いいさ…でも、もう死ぬなんて考えるなよ」
 そう言われると、少女は素直に頷き、それから弱々しく微笑んだ。
 少年はその笑顔を見て、少し安心する。それにしても、可愛らしい笑顔だ。
「まだ名前聞いてなかったけど」
「里仲麻衣。あなたは?」
「俺は、相原力也。よろしくな」
 二人はそこで、やっと名乗り合えた。

「送ってってやるよ、向こうにバイクが止めてあるんだ。君んちどこだい?」
 力也は立ち上がると、ジーンズのお尻をはたきながら言った。
「いいわ、独りで帰れるから」
 麻衣がためらいがちに言う。
「こんなとこから、独りで帰れるわけないだろう」
「来るときは独りだったもん」
「歩いて来たのか?」
「途中の道まで、タクシーで来た」
「バカだなぁ。帰りはタクシー拾えないぜ、電話もないし」
「どうせバカだもん。それに、帰るつもりなかったし……」
 麻衣は、橋の上に座り込んですねている。繊細で危うげなこの少女は、まるでガラス細工のようだ。
 力也はそんな彼女が、無性に愛おしく思えて来た。
「いずれにしろ、こんなとこにいつまでいてもしょうがないよ。とにかく送ってくから」
「とおいよ」
 麻衣が上眼遣いに見る。
「どこだよ」
東京
「とおきょおー?」
 力也が素っ頓狂な声を上げた。
「そりゃまた……遠いな」
 麻衣は探るような眼で、言うか言うまいか考えている。そして、
「でも今はね……ふもとの、療養所がある病院にいるの」
 ためらいがちに言った。
「なぁんだ、それを早くいえよ。俺はまた、東京まで行かなきゃなんないかと思っちゃったぜ。あそこなら近いから、どおって事ないや。さぁ、行こう」
 力也が努めて明るく言うので、麻衣はいくらか安心した。立ち上がろうとして思わず下の谷底を見る。その瞬間、眼も眩むばかりの高さに、足がすくんで動けなくなってしまった。さっきまでは何ともなかったのに、死を諦めた途端、恐怖心が甦って来たのだ。
「こ、こわくて立てない」
 微かに震えながら、すがるように力也を見る。
「世話の焼けるお嬢さんだな、まったく。ほらつかまりな」
 力也は呆れ顔になりながら、手を差し伸べた。
 何と言われようとそれどころではない。麻衣は真っ青な顔をしながら、恐る恐る手を差し出した。
 力也がその手を掴む。引っぱって立たせると、
「さぁあ行くぞ」
 そう言ってさっさと歩き出そうとしたが、全然動こうとしない。
「今度はどうしたんだよ」
 振り返ると、
「だって……足がすくんで歩けないんだもん」
 麻衣が今にも泣き出しそうな顔になり、か細い声で言った。
 力也が手を放して向き直る。
「じゃあどうすればい……」
「て、手を放さないでよォ、いじわる」
 麻衣は力也の言葉を遮るように言うと、慌ててその胸にしがみついた。
 微かに震えが伝わって来る。
 力也はちょっとドキッとしたが、すぐに『お手上げだ』というように空を仰いだ。それから軽く溜息をつく。
「しかしなぁ、このままここにいるわけにもいかないし……困ったな」
「ごめんね、迷惑ばっかかけちゃって」
 麻衣が可愛い声で言った。力也の胸に身を寄せて、すっかり安心し切っている。もう震えてもいない。まるで、そうしていれば、彼が無事に連れて行ってくれるとでも思っているようだ。
「そんな、こんなとこで落ち着かれちゃっても困るんだけどなぁ」
「だって、こうしてると落ち着くんだもん……不思議ね」
(呑気なヤツ)
 力也はそう思いながらしばらく考えていたが、いきなり麻衣を離すと背中を向けた。
「や、やだぁ。おいてきぼりにしないでよ」
 また急に心細くなる。
「おぶさりな」
 素っ気なく言われて、麻衣はためらった。
「え?でも」
「おぶって連れてってやるよ。でないと、一生ここにいる事になっちまう」
(怒ってるのかなぁ)
 麻衣が尚も黙って立っていると、力也がいきなり立ち上がって振り向いた。
(キャッ、怒鳴られる)
 思わず眼をつぶって下を向く。
「ほんとに置いてくぞ」
 しかし、力也は案外優しい声でそう言うと、また向こうを向いてしゃがんだ。
 麻衣も、今度は素直におぶさる。
 軽々と背負って立ち上がると、力也は少々面食らった。
(何でこんなに軽いんだ?そんな痩せてるふうにも見えないけど……)
 実際、顔を見るとふっくらした感じだし、背中に当たる胸だって……。不思議な気持ちで、思わず振り返った。
 そんな事とは知りもしない麻衣が、軽く顔を横に傾けて、
「おこってる?」
 と可愛く聞いて来る。
(こいつ、どういう性格してんだろ)
 力也はそう思いながらも、
「別に、怒ってないよ」
 平静を装って言った。しかし心の中では、
(ほんとに自殺しようと思ってたのかな。でも俺が止めなきゃ、完全に飛び降りてたしなぁ)
 尚もそんな事を考えていた。

― 以下、書籍版へ続く ―


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コメント 10

がぁこ

も~っ、ここまで読んじゃったら次が見たくなるのは当然の心理でしょ?(笑)
本屋さんに売っています?amazonじゃないとだめ?
この手のくだりは結構弱いのですね・・はい。(w)
by がぁこ (2006-02-19 02:41) 

gurigura22

本当に今さらで・・・ぶっ飛ばされそうなんですが・・・(汗)
eikoh さんって小説家さんだったのですね!!
いつも文章が上手だなぁ・・と思っていましたが
ちゃんと著書紹介コーナーもありました。ごめんさ~い。
by gurigura22 (2006-02-19 03:29) 

kan

いつもコメントありがとうございます。
ぜひ本を手にとって見てみたいと思いました。
実は文章書くの苦手なので、尊敬しちゃいます。
by kan (2006-02-19 09:29) 

これはまた、前記事の作品とはうってかわって、ソフトな感じも含んでますね。
ぜひ、読ませていただきたいです。
by (2006-02-19 10:17) 

Rucci

作品、ぜひ読みます★
書くことは、泉のようなこと。コトバは生まれるもの。
ワタシはそう感じています。
こうして、現代は簡単にボタンで打ち込めてしまうけれど、自筆で書くことも 大切にしたいですね。
eikohさんは、作品を書かれているときは、やはりPCベースですか?
独自の留め方がおありだと思いますが、普段聞けない単純なこと、聞きたくなってしまいました。 ^^
by Rucci (2006-02-19 20:42) 

ecco

出だしがいいですね。
eikohさんのシチュエーションの設定の仕方は抜群ですね。
欲を言えば・・
1つの言葉で2つのことがわかるより
1つの言葉で1/2しかわからないくらいの
言葉のペースのほうが読み手にはちょうどよいのではないかしら
というのが私の個人的な考え方です。
プロの方にえらそうなこといってすいません!
by ecco (2006-02-19 21:41) 

えいこう

まずは皆様。週2回の連載小説も終わり、ネタ切れ気味なので、昨年共同出版した本を改めて紹介させて頂きました。正直言って、宣伝ですね。恐縮ですが、頭の片隅にでも止めておいて頂ければ幸いです。

がぁこさん
ゴメンねぇ~。そうだよねぇ~。正直、それを期待して公開した面もあるしねぇ(汗)。曲がりなりにも本として売られているので、自分のブログとは言え、全文掲載はまずいだろうという配慮もありまして。
悲しいかな、在庫のある書店は皆無だと思います。恐らく、収蔵してる図書館もあまりないだろうし。でも日本国内なら、どこの書店からでも取り寄せは可能なので、購入は出来ます。興味を持って貰えたなら、よろしくお願いします。
nice!もありがとう。

mikeycoさん
小説家だなんてとんでもない。穴があったら入りたいです(汗)。
書店流通コードがつく(つまり、書店から取り寄せが可能〉という点では、プロの作家さんの本と変わりありませんが、費用面では自費出版に近い形で出してますので。これで生活が成り立っているわけではありませんし。そう言う希望、夢は持ってますけど(笑)。
nice!もありがとうございます。

kanさん
こちらこそ、お越し頂き嬉しいです(笑)。
是非何かの機会に、よろしくお願いします。
nice!もありがとうございました。

誠大さん
ある意味、これが一番私らしい作品かも知れません(笑)。
よろしくお願いします。
nice!もありがとうございました。

Rucciさん
ありがとうございます。恐縮です。
そうですね。詩とはまた違うところもあるでしょうが、あれこれ考えて書き出した文章よりも、ふとしたきっかけで生まれた一文に、ニヤリとしたりする事は多々あります。
私の場合、完全にPC、ワープロで書きます。これで満足という事が少なく、推敲する度に書き直しが多いのです。またある文節、文章を前や後ろにそっくり移動させる事も多い。そうなるともう、手書きでは殆ど不可能なんですね。10代の頃はワープロなんてありませんでしたから、それこそお遊び程度で手書きでも書いてましたけど。今では、ワープロがあればこそ書けると言ってもいいほどです。
プロットを立てる時も、PCに向かいます。時系列に沿って場面を並べていき、そこに肉付けしていく形を取ります。今までは一太郎とコンビの花子を使っていましたが、同じジャストシステムからアイデアマスターという打って付けのソフトが発売されたので、これからはストーリーを組み立てるのも楽になりそうです。
今は殆どの文学賞がワープロ原稿を歓迎していますし、私にとって小説を書くには、パソコンは欠かせない存在になってます。
余談ですが、入力はカナ漢字変換です。ローマ字変換よりもダイレクトに思考が手に伝わり、手書きに近い感覚で打てます。慣れもあるでしょうが、ローマ字変換だと一度頭の中で組み替えるので、しっかりした日本語には適さないと考えています。当たり前ですが、無駄な打鍵も多いですし。とは言え、ブラインドタッチは出来ないんですけど(苦笑)。
nice!もありがとうございました。

eccoさん
お褒めの言葉、素直に嬉しいです(笑)。
なるほど。ついつい、簡潔に分かり易くを心がけてしまう結果でしょうか。きっちり説明するより、読み手の想像に委ねるくらいで丁度いいという事でしょうね。
こういう指摘は、遠慮なくして下さい。どんなに名のある評論家よりも、やはり読んで下さる方の意見が一番だと思ってますので、大変ありがたいです。あとそれを生かせるかは、私の力量次第ですけど(汗)。
プロなんてとんでもありません。そうなりたいという希望はありますけど、夢のまた夢です。
nice!もありがとう。
by えいこう (2006-02-20 01:05) 

えいこう

ホシさん
nice!、ありがとうございました。
by えいこう (2006-02-20 01:27) 

アッキー

続きが読みたくなってしまいました・・・・注文しちゃおうかな
by アッキー (2006-02-20 18:01) 

えいこう

アッキーさん
是非是非、よろしくです。←悪魔の囁き(苦笑)。
nice!もありがとうございました。
by えいこう (2006-02-20 23:32) 

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